青とピンクは、混ざらない

ブルーハーツの「夢」を、加藤純一が熱唱する中。

盛り上がるキャンプファイヤー周りを、冷静に見つめる生徒が2人。

桜井浩明と、井上加奈だった。

四宮杏と山野康弘の到着を待つ間、交わされていた言葉が終了しても、浩明は独り言のようにつぶやいた。

「キョウちゃん、これからどんどんかわいくなるだろうなあ」

加奈のこめかみに青筋が浮く。「いつから企んでたのよ」

あははと、浩明は笑い出す。「ほんと、加奈ちゃん探偵みたいだよっ?」

「そう、小学生の時からなのね」

ピタッと、笑い声が止み、加奈に向き直る。

その表情は、普段浩明が見せているものではなかった。

一瞬怯んだ加奈だったが、やはり本来の彼は全く別の性格なのだと確信した。

 

「やや、だからさ、そんなんじゃないんだってば」

「…あらそう。あたしはてっきり、桜井君の惚れた話は、杏を覚醒させるためだと思ってたんだけど。

検討違いならごめんなさいね」

両手を挙げる浩明。

「降参だよぅ。ごめんなさい。もう、なんでそんなに勘がいいんだろうねぇこの子はっ」

「だから、いちいち言動がくさいのよ。もうちょっと研究しなさいよ」

「やっぱりキョウちゃんだなあ。女の子の友達でもこういう感じの子を見つけちゃうんだから」

「…そう、ばらされてもいいのね」

「あわわわわ。すいませんすいません」

「で?山野君も小学生からなの?」

「すごいよねぇ加奈ちゃん。ほんとに。

僕といい、やっちょといい、気づいてるのはお互いくらいだと、僕もやっちょも思ってたのにねえ」

「そんな陳腐な演技にだまされるわけないでしょうが。もっとすごいの相手にしてるんだから」

「もっとすごいの?この学校にいるの?」

失言に気づいた加奈は、話題を強引に戻す。

「一応、作戦は成功したみたいだけど、これからどうするのよ」

「う~ん、もう僕はお役ごめんかなあと、思ってる」

「…」

「多分、やっちょは今回も自分が表で関わる気じゃなかったと思うんだよね。

キョウちゃんが苦手にしてるのも気づいてたから、絶対気づかれないように行動してたわけだし」

「そうよね。じゃなかったら、桜井君が、あの置手紙でフォローする必要もないわよね」

「そうそう。だから、今日やっちょがキョウちゃんと2人で来たのには、流石に僕もびっくりしちゃったけど、

話聞く限り、きっと泣きそうなキョウちゃんほっとけなかったんだろうねぇ。あぁあぁ、カッコいいなあ、ほんと」

「そうね」

「全然そう思ってなさそうだね…」

「思ってるわよ、人並みには」

「…フォローくらいはするけどさ、あの2人がそう簡単に進展するとは思えないからさ、見守ってくだけだよぅ

 

「お守りの必要がなくなったんなら、今度こそ1組の白井さんに告白できるといいわね」

 

固まる、浩明。事も無げに言われたその一言は、しかし彼にとっての最大の秘密だった。

「…ほんと、探偵みたいだね…なんか僕、怖くなってきちゃった…」

「そんなの見てれば分かるに決まってるじゃない。

入学してからずっと好きだったんでしょ?あなたも相当よね。自分のこと後回しにするとか」

「…僕のことはまあいいんだよぅ。とにかく、加奈ちゃんさ、キョウちゃんのフォロー、よろしくね?」

「言われなくても分かってるわ」

 

加奈には金輪際絶対勝てないだろうと、ひっそりとため息をついた浩明の目に、

のそのそと背中を丸めてこちらへやってくる人物が見えた。

気づいた周りの女子が、ひそひそと耳打ちし合っている。誰であるかなど、一目瞭然だった。

 

「ありゃりゃ、やっちょが1人で来たよ。何かあったかなぁ」

腕組姿勢の加奈は、

「あの子のことだから、意識し始めた途端どうしていいか分からなくて逃げたんじゃないの」

見てきたように言った。

自然と、2人ともため息が出る。

「やっちょ、かわいそうだねぇ」「山野君、苦労するわね」

 

同時にはいたお互いの台詞に噴出す2人だった。

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