お出迎え・1

 

「いや、悪いとは思ってんのさ。したけどもね?あれは反則だわ。あんな似てたら誰だって言ってしまいま

よそりゃ。あたしだけでなくてさ、恐らくね?あの付近にいた皆さんそう感じてらしたと思うわけよ」 

新千歳空港の3F。喫茶店のテーブルで。

かれこれ10分以上、喋り続けていた。

一年ぶりに会った友達を前に。

 

 

ヨシとタッチャンとは高2の時、たまたま同じクラスになった。

たまたま、タッチャンもヨシも私と姉が借りているアパートのすぐ近くに住んでいた。

たまたま、帰り道に自転車で一緒になる時が重なって、たまたま、話すようになって。

それから自炊している私の部屋に2人が入り浸るようになり、他校だけどタッチャンのマージャン仲間の

ノブちんがたまたま加わり、なんとなく、そのままここまできたという感じ。

 

私を除いて、皆、高校生ではない。

私を除いて、皆、無事に高校を卒業していた。

ヨシは札幌、タッチャンは釧路の大学に合格して、立派な大学生。

ノブちんは、高校時代からバイトしていたレストランに就職していた。

 

きっかけは、たまたま。

 

そして今。

たまたまではなく私の前にいる彼ら。

 

 

 「なんで俺らは喫茶店とかでダラッダラこいつの話を聞かなきゃいけないわけ?」

椅子に浅く腰掛け、背中を背もたれに引っ掛ける、だらしない体勢で、タッチャンが言い放つ。

「ほんと、あたしも彼氏と約束あるから、早く出発したいんですけど?迎えにこいとかほんとうざいんですけ

ど」タバコの煙ををふーっと吐き出すヨシ。

「俺もね、仕事が夜入ってんの。そんでもってここまで俺の車で来たわけ。意味わかるか?おい」

時計をチラチラ気にしているノブちん。

こんなやり取りも、一年ぶり。

くすぐったかったり、恥ずかしかったり、してしまう。

そんな気持ちが、私をさらに饒舌にさせる。

 

「ちょっと~なして佐々木健介に反応しないのさ?あー、でも、ほら、もう1人ね、うん。もう1人運命的な出

会い方をしたんだわ!いや一応昨日の昼に東京着いたっしょ?も、なまら疲れててさ、とりあえずもう即効

爆睡してしまったんだけどもさ、ていうか、そこのホテルがまた、こう、なんてーの?まーあ、ほんと、ビジネ

スホテルの中のビジネスホテルでねえ…って。ちょいと。お待ちなさいよ君達」

さっさと動きだす彼らの背中を慌てて追う。

「やや、したからね?一年ぶりでしょ?あら懐かしいわね、元木さんのお話もまあ長いけどお久しぶりだし

聞いてあげましょうかしら。なんて心境にはならない?」

スタスタと歩く前の3人。追いかける私の手にはあの重たいスーツケースはない。

ノブちんの右手に引っ張られ、ガラガラと音をたてていた。

「ほんと、変わってないわ元木は」

「手紙には美しくなったとか書いてあるからさ、あたしちょっとドキドキしてたんだけど、全く変わってないし」

「まーしょうがねえな、元木だし」

肩に食い込んでいたリュック。タッチャンの右肩で揺れている。

皆の声が柔らかくて。

顔は見えないのに、、背中しか見えないのに。

3人が笑顔なのが分かってしまって、くすぐったい。

 

 

新千歳空港に降り立ち、スーツケースを受け取るためにベルトコンベアーへ行こうとすると、姉はそのまま

用事があるからと先に帰ってしまった。

結局、機内では一言も言葉を交わさなかった。

なんだか体が重くなりつつ到着ロビーへ出ると、誰かが爆笑していた。

そのうるささが気分を一層下へ引っ張っていく。

しかしよくよく聞いてみると、複数あるその笑い声は良く聞いたことがあった。

声を辿っていくと目に入ったのは、やはりというか、愉快な仲達。

ヨシに手紙で迎えにこいとは書いたけれど、まさか来てくれているとは思っていなかった。

駆け寄れば、スーツケースはノブちんに、リュックはタッチャンに、すぐ奪われる。

それが当然とでもいうかのように。

「おかえり」と、ヨシから投げ渡された、私が大好きなジャスミン茶のペットボトルを、アタフタしながらキャッチ

た。手になじむ、独特な形をしたペットボトル。

「ただいま」と、答えて。

 

ああ、帰ってきた。

しみじみ、思った。

 

 

 

ロビーを出れば、暑いは暑いが、カラッと空気は乾いていた。

東京で感じた息苦しさは全くない。

思わず伸びをして、息を思い切り吸い込む。

懐かしい匂い。

北海道の匂い。

 

「今車回してくるから、待ってて」

スーツケースをその場に置き、ノブちんがタッとロータリーを走り抜けていく。

黄色いTシャツが真っ青な空に、気持ちいい。

背中にはオレンジで《We were BORN!!》のプリント。

なんじゃそりゃ、と、笑ってしまう。

 

「そういえばさ、タッチャンは大学釧路だよね?今夏休み?」

隣にいる痩せっぽちの男に尋ねてみる。

「夏休みだろ、どう考えても」

かわいらしいのは外見だけで、言動はかなり、荒い。

「したっけさ、8月一杯は札幌いるんだ?」

「あー?いや、来週には釧路に戻る」

「えーなんでさ?したっけちょっとしか遊べないっしょやー。つまんない男だね」

そこでバシッと頭をはたかれる。

グーでなかっただけありがたいと思うことにした。

頭頂部をさする私にヨシがニヤニヤ顔で耳打ちする。

「北山君ね、彼女出来たらしいんだわ。同じ大学の子だってさ。もー離れてらんないらしいよ」

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