「ひゃっほ~!」
バシャバシャと、これでもかというほど音をたてて。
純ちゃんと渡辺君が波に向かって駆けていく。
夏休みもあと1日。
修兄の運転で海に来ていた。
全国大会3回戦。暑さとの戦いだったという愛媛。
自分の実力が足りなかったと言っていた純ちゃんの顔は、清々しかった。
お疲れ様会もかねて。全員でどこかに行こうということになって来たのが、お盆もすぎ、クラゲがそろそろ出てくる時期の海。
それでも遅くにやっと夏らしくなったからか、短い北海道の夏を満喫したいからか。
海辺の至るところに人がひしめいている。
海の家もまだ沢山開いていて、声を張り上げている呼び込みのアルバイト。
加奈にやたらと声をかける男の人達が多いのは気のせいではないだろう。
修兄の知り合いが経営している海の家に荷物を置き、早速純ちゃんと渡辺くんは海へ走っていく。
日焼け対策に余念がないひろくんに渡された、アネッサ。
右手で転がしながら、着替えるか着替えないか、そればかり考えていた。
足元には井草のカーペット。
置いていた左手を見てみれば、井草の後がくっきりと残っている。
「キョウちゃんと加奈ちゃんの水着楽しみだなぁ!ねぇねぇ、どんなの買ったの?」
「桜井君、今のはセクハラ発言と見なすわ」
「えぇ!?そうなの!?そそそ、そんな、し、下心とか、全然ないんだよ!?き、キョウちゃんは分かってくれるでしょ!?」
曖昧に笑ってやり過ごしながら、井草の後を見つめていると、知り合いの店主と話を終え、修兄が戻ってきた。
「なに、二人とも水着なんて買ってたの?」
「あ!ほら!修ちゃんも言ってるよ!?これはセクハラにはならないの!?」
「え?ヒロ、セクハラしたのか?」
「ちちちち違うってぇ!もぅ!僕そんなつもりで楽しみって言ったんじゃないんだよぅ~」
「はは、まあ男が言ったら下心ありそうに聞こえるな」
「え~、修ちゃんまで~」
加奈から噴出す負のオーラを無視しながら話す2人。流石に心が強い。
ちらりと左手の隙間から窓際を覗けば、寝転がっている、やっちょ。
着替えられない原因は、だらだらと外の景色を眺めている。
「俺はとりあえず店手伝うから、キョウ達は遊んできな」
手に取ったエプロンには、でかでかと「PENGUIN`S BAR」の文字。
いたるところにペンギンのイラストがある店内で、オレンジ色のエプロンをつけた修兄。
「ちょうど稼ぎたいと思ってたからいいんだよ」
なんて、私に甘いことを知っているだけに疑わしい。
加奈と札幌のパルコまで行って買ったお揃いの水着は、別に露出が高いものではない。
下はジーンズ色のホットタイプパンツに、上はランニングのような形の2ピース。
いつも着ているテニスウェアとほとんど変わらないといってもいい。
変わるのは色味だけ。
気になるのは、鮮やかなピンクと黄色のプルーで包まれた自分を、やっちょはどういう風に見るだろう、ということだけ。
「ぐずぐずしてたら寒くなっちゃうわね。杏、着替えに行きましょ」
「う、ん。そうだね!いっぱい遊ばなきゃ!」
入り口から波打ち際を覗くと、飛び上がって遊んでいる、純ちゃんと渡辺君の姿。
愚図愚図していたら、あの楽しい空間から取り残されてしまう。
折角海に来たのに、恥ずかしいからと楽しめないのは勿体ない。
右手のアネッサをビニールバッグにしまい、着替えスペースへと立ち上がった。
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